上場会社が自己株式を取得した場合のみなし配当の取り扱い

上場会社が自己株式を取得した場合のみなし配当の取り扱い

自己株式取得時のみなし配当の取り扱い

みなし配当の規定

みなし配当が発生した場合、株主には配当課税が生じたものとして取り扱われ、個人株主であれば配当所得として、法人株主であれば配当等を受け取ったものとして税務上取り扱われます。

自己株式の取得が行われた場合、原則として、税務上のみなし配当が発生します。

しかしながら、「金融商品取引法第2条第16項に規定する金融商品取引所の開設する市場における購入」については除外されています(所得税法第25条第1項第5号、法人税法24条第1項第5号)。

上場会社が自己株式を取得した場合に、その取得方法によりみなし配当が生ずるかどうかが変わってきます。この記事では、その点について解説いたします。

法人税法
第二十四条 法人(公益法人等及び人格のない社団等を除く。以下この条において同じ。)の株主等である内国法人が当該法人の次に掲げる事由により金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額(適格現物分配に係る資産にあつては、当該法人のその交付の直前の当該資産の帳簿価額に相当する金額)の合計額が当該法人の資本金等の額又は連結個別資本金等の額のうちその交付の基因となつた当該法人の株式又は出資に対応する部分の金額を超えるときは、この法律の規定の適用については、その超える部分の金額は、第二十三条第一項第一号又は第二号(受取配当等の益金不算入)に掲げる金額とみなす。
五 自己の株式又は出資の取得(金融商品取引法第二条第十六項(定義)に規定する金融商品取引所の開設する市場における購入による取得その他の政令で定める取得及び第六十一条の二第十四項第一号から第三号まで(有価証券の譲渡益又は譲渡損の益金又は損金算入)に掲げる株式又は出資の同項に規定する場合に該当する場合における取得を除く。)

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=340AC0000000034#347

所得税法
第二十五条 法人(法人税法第二条第六号(定義)に規定する公益法人等及び人格のない社団等を除く。以下この項において同じ。)の株主等が当該法人の次に掲げる事由により金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額(同条第十二号の十五に規定する適格現物分配に係る資産にあつては、当該法人のその交付の直前の当該資産の帳簿価額に相当する金額)の合計額が当該法人の同条第十六号に規定する資本金等の額又は同条第十七号の二に規定する連結個別資本金等の額のうちその交付の基因となつた当該法人の株式又は出資に対応する部分の金額を超えるときは、この法律の規定の適用については、その超える部分の金額に係る金銭その他の資産は、前条第一項に規定する剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配又は金銭の分配とみなす。
 当該法人の自己の株式又は出資の取得(金融商品取引法第二条第十六項(定義)に規定する金融商品取引所の開設する市場における購入による取得その他の政令で定める取得及び第五十七条の四第三項第一号から第三号まで(株式交換等に係る譲渡所得等の特例)に掲げる株式又は出資の同項に規定する場合に該当する場合における取得を除く。)

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=340AC0000000033#234

金融商品取引法
第2条
16 この法律において「金融商品取引所」とは、第八十条第一項の規定により内閣総理大臣の免許を受けて金融商品市場を開設する金融商品会員制法人又は株式会社をいう。

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=323AC0000000025&openerCode=1#5

法人税法施行令第23条

3 法第二十四条第一項第五号に規定する政令で定める取得は、次に掲げる事由による取得とする。
一 金融商品取引法第二条第十六項(定義)に規定する金融商品取引所(これに類するもので外国の法令に基づき設立されたものを含む。)の開設する市場における購入
二 店頭売買登録銘柄(株式で、金融商品取引法第二条第十三項に規定する認可金融商品取引業協会が、その定める規則に従い、その店頭売買につき、その売買価格を発表し、かつ、当該株式の発行法人に関する資料を公開するものとして登録したものをいう。)として登録された株式のその店頭売買による購入
三 金融商品取引法第二条第八項に規定する金融商品取引業のうち同項第十号に掲げる行為を行う者が同号の有価証券の売買の媒介、取次ぎ又は代理をする場合におけるその売買(同号ニに掲げる方法により売買価格が決定されるものを除く。)

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=340CO0000000097#597

所得税法施行令

第六十一条 法第二十五条第一項第五号(配当等とみなす金額)に規定する政令で定める取得は、次に掲げる事由による取得とする。
一 金融商品取引法第二条第十六項(定義)に規定する金融商品取引所の開設する市場(同条第八項第三号ロに規定する外国金融商品市場を含む。)における購入
二 店頭売買登録銘柄(株式(出資及び投資信託及び投資法人に関する法律第二条第十四項(定義)に規定する投資口を含む。以下この項において同じ。)で、金融商品取引法第二条第十三項に規定する認可金融商品取引業協会が、その定める規則に従い、その店頭売買につき、その売買価格を発表し、かつ、当該株式の発行法人に関する資料を公開するものとして登録したものをいう。)として登録された株式のその店頭売買による購入
三 金融商品取引法第二条第八項に規定する金融商品取引業のうち同項第十号に掲げる行為を行う者が同号の有価証券の売買の媒介、取次ぎ又は代理をする場合におけるその売買(同号ニに掲げる方法により売買価格が決定されるものを除く。)

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=340CO0000000096#560

相対取引

特定の株主からの相対取引

株主総会特別決議等の手続きを経た場合、特定の株主から相対取引によって自己株式を取得することができます。

相対取引で自己株式を取得した場合、みなし配当は発生するか

上場会社の株式とはいえ、相対取引で自己株式を取得した場合には、市場で買付けたわけではないため、原則通り、みなし配当が発生します。

公開買付け

公開買付けとは

公開買付けとは、不特定の株主から公告等により提示された条件に従って株券等の買付けの申込みまたは売付けの申込みの勧誘を行うことで、市場外で株式の買付けを行うことを指します。

公開買付けで自己株式を取得した場合、みなし配当は発生するか

公開買付けは、上記の通り市場外取引となりますので、金融商品取引所の開設する市場における取得に該当しません。したがって、原則通り、みなし配当が発生することとなります。

市場内での取得

市場内での取得

立会市場内での自己株式の取得には、価格規制や数量規制がありますが、これらの規制の下で買い付けを行うことは可能です。

市場内での取得の場合、みなし配当は発生するか

金融商品取引所の市場を通じた取引で自己株式の取得に応じた場合については、みなし配当事由から除外されています。

市場内(特に立会市場)で自己株式の取得が行われた場合、株式の売り手側では相手方が発行法人だということがわかりません。したがって、そもそもみなし配当を認識することが不可能と考えられるため、適用除外とされているものと考えられます。

したがって、市場内での取得の場合、みなし配当は発生しません。

自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)

ToSTNeT-3とは

ToSTNeT-3は、買い手を株式の発行会社に限定した自己株式専用の市場です。 通常イメージするようなオークション式の売買が行われる立会市場からは独立していますが、こちらも市場取引に該当します。

ToSTNet-3を通じて自己株式を取得した場合、みなし配当は発生するか

金融商品取引所の市場を通じた取引で自己株式の取得に応じた場合については、みなし配当事由から除外されています。ToSTNet-3を通じて自己株式の取得に応じた場合、ToSTNet-3が当該条文上の市場に該当するかどうかが問題なります。

ToSTNet-3を開設している東京証券取引所は内閣総理大臣の免許を受けて金融商品市場を開設する株式会社であり、金融商品取引法第2条第16項に規定する金融商品取引所に該当します。また、ToSTNeT-3は、東京証券取引所が開設する同条第17項に規定する取引所金融商品市場のうち立会市場以外の市場に該当します。

したがって、文理解釈上、ToSTNeT-3を通じた自己株式の取得については、みなし配当事由に該当しないため、配当課税は行われないと考えられます。

この点、平成24年5月25日裁決の法人税の事案で、ToSTNet-3を通じた自己株式の取得は、文理解釈上、みなし配当事由に該当しない旨の判断がされています。同様の文言により条文が構成されている所得税においても同様に取り扱われるものと考えられます。

そのため、ToSTNet-3を通じて自己株式の取得に応じた個人株主は譲渡益に対して譲渡所得20.315%の課税を受けることとなり、法人株主は譲渡益に対して法人税等の課税を受けることとなると考えられます。

おわりに

上場会社の自己株式の取得にかかるみなし配当事由の該当性についてみてきました。

上場会社の自己株式の取得の場合、取得方法が様々あるため、その取得方法によりみなし配当課税の有無が変わることに留意が必要です。

金商法など手続関係の規制から自己株式の取得手法について検討されることと思いますが、手法によっては、みなし配当が発生し発行法人においてみなし配当の源泉徴収が必要かどうかが変わってきますので、ご注意ください。

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法人税一般
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